人には名前がある

好きなことについて書きます。

「ラブライブ!サンシャイン!!」3話、普通だから喜べる―『奇跡だよ!』

スクールアイドルとして第一歩を踏み出すために必要なものは何か?
アイドルはファンが居て成り立つものでファンとの関係性が故にアイドル足りえるものでしょう。
ではファンを獲得するためにどうすればいいのか、たゆまぬ練習をし自分と向き合って
発することが出来る舞台、そう「ライブ」を行う必要がありますね。
ライブとは初めて観客と相まみえる瞬間です。
そこで行われるパフォーマンスは壇上に立つ者から観客への一方的なモノに見えますが
観客が求めなければアイドルはただの人でしかありません。
相互の関係性が成立して初めてアイドルは誕生すると言ってもいいでしょう。
アイドルにとって重要な観客と初めて対峙する場所、それがファーストライブです。
ラブライブ!サンシャイン!!3話ではタイトル通りの「ファーストステップ」ならぬ「ファーストライブ」が行われました。

 

突如舞い戻った小原鞠莉に「ライブで体育館をいっぱいにできなければ解散すること」と言い渡される千歌、曜、梨子の3人。
しかし全校生徒を集めても満員にはならないことが分かり
千歌は姉へ「会社の人を誘って来て欲しい」と頼むも受け流されてしまいます。
また、曜からの提案で放送で呼びかけることや沼津駅での呼び込みを思いつき実施していきます。
沼津ではチラシを配りながら不慣れな梨子もアピールを続け
砂浜で体力づくりもしつつ3人でグループ名を考えます。
悩みながら知恵を寄せ合うものの中々良い案が浮かびません。
しかし偶然砂浜に書かれた"Aqours"という名前を見つけ
もらった名前にはなるものの千歌の直感でそのまま使うことに。
上手くいくかどうかは分からない。都会ではないから人がちゃんと来てくれるかも分からない。
そんな気持ちを察するかのようにライブ当日の天気は豪雨となります。
不安を抑えるように3人が手を1つに重ねようとするところで千歌は提案します。
「手を繋ごうか」と。
3人で1つになれば大丈夫だと言うのです。

 

そしていざ―幕は開く。

 

そう、ここまではμ'sが作った「ラブライブ!」3話のファーストライブへの道のりが色濃く残っているのです。
前シリーズを見ていた人は間違いなくそう確信するでしょう。

 

しかしAqoursが辿った道はμ'sの物語とは少し異なりました。

 

幕が上がり目の前に広がった光景は満員のお客さん…ではなくまばらに、少しだけ来てくれた観客が見えます。
ラブライブ!」のファーストライブでは一抹の不安も無く順調に事が進みましたが幕が上がった後、
誰も居ないという衝撃が待ち受けていました。
ですがラブライブ!サンシャイン!!ではμ'sが見せた「誰も居ない」物語でもなく
かといって「観客で満員になる」という劇場版ラブライブ!においてスクールアイドルが普遍的な存在となった後の展開でもない
ある種、リアルな状況が出来上がっていました。

 

それでは何故こうなったか?を3話全体の脚本から辿っていきます。
実は千歌達はライブを開始する時刻を間違えていて、少しだけ早い時間に幕を上げてしまっていたことが後で分かります。
ここでは千歌の姉が咄嗟に巧い嘘をついた、という可能性は考えず言葉を額面通りに解釈することにします。
では時刻通りにライブを開始していたらどうでしょう?
ライブ開始前に停電が起こり時間はかかるものの発電機によってひとまずの復旧は可能です。
そして呼び込みや姉・街の人達の協力で幕が上がる頃には体育館は観客で埋め尽くされているでしょう。
前シリーズを見ている私達からしてみると黒澤ダイヤが言うように、そして前述したように
「今までのスクールアイドルの努力と街の人達の善意があってのもの」に見えることでしょう。

 

「誰も居ない」「観客で満員になる」という2つの物語を外して
あえて物語がない、「普通」の状態≒「少しだけ居る」を選択してきたのです。

 

誰が選択したか?という問いには簡単に答えられますね。
天気を操ることもできない、停電というハプニングに見まわれながらも一度は歌おうとし
しかし立ち止まってしまう、ごくごく普通の少女達です。
だけどとってもバカなんですよ。
必死になってダンスの練習をしたりどうやってお客さんを呼ぼうか考えているうちに
大事な開演時刻の誤りに誰も気づけないほどに。
μ'sが好きだ、スクールアイドルになりたい、だから彼女たちみたいに私達も輝いてみたい。
私達なりの方法で。
そういった純粋な思いが敷設されたレールを切り替えたと私は感じました。

 

けれどその後、結果的には「観客で満員」となってしまいます。
前人の偉業があればこそあなた達はそこに立っていられるのよ、という黒澤ダイヤさんの問いかけに

高海千歌はこう答えます。
「分かってます。でも、ただ見ているだけじゃ始まらない。上手く言えないけれど…今しかない瞬間だから。
 だから!輝きたい!」

 

誰かに敷かれた運命かもしれない。けれど自分たちが感じた気持ちに嘘はつきたくないと。
どんな道だって進みたいと願って歩くから、貰い物じゃない私達の道になると。
高海千歌が如何にバカで純粋でどこまでも一途で
立ち止まることだけはしたくない意志を持った女の子かが分かるとても良い台詞だと思います。
だから私も心動かされました。
あぁ、ここからAqoursの物語が始まるんだな、と。

 

人が百人いれば、幸せな人生の物語も百通りあります。
物語の成功を約束されているように見える、そんな人生でも必ず生き方を問われる場面が出てきます。
幸せとは何か、進みたい道はどれか、もし正しさなんてものがあるとすれば、何が正しいか。
そうやって誰もが考える普遍的なモノを、この3話では強く意識して描いていると感じました。
一体どこまで彼女たちは走っていくのか。どんな奇跡を選んでいくのか。
改めて見守っていきたい、そう思えるお話でした。