人には名前がある

好きなことについて書きます。

アニメ「タイムトラベル少女~マリ・ワカと8人の科学者たち~」のススメ / 学ぶことの楽しさ

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目の前で人が倒れた時、あなたは適切な処置を行うことができるでしょうか?

 

人工呼吸や心臓マッサージ、AEDを探すなど詳しく覚えていなくても
どういった行動を起こせばいいかは思い浮かべることができると思います。
現代の心肺蘇生法が確立されたのは1960年、20世紀に入ってからです。
それまでは体を温めたり煙をふいごで吹き込んだり馬の背中に人を乗せて走らせたりと
とんでもない方法がとり行われては失敗と成功を繰りかえし忘れられてきました。
その裏には心臓がどのような仕組みで動いているか観察を続け
科学的な合理主義にもとづいて理論を組み立て、反証が成立しないことを証明していった人達が居る
ということは現代人であれば想像することができると思います。

 

何故こんな前置きをしたかと言うと今回紹介するアニメ
「タイムトラベル少女~マリ・ワカと8人の科学者たち~」に深く関係するからです。
今夏より始まった本作は教科書に名前が載るような科学者たちに
過去と現代を行き来することになったヒロインのマリとワカが出会い
アドベンチャーを繰り広げるオリジナル作品となっています。※原典は「発明発見物語全集~磁石と電気の発明発見物語」
私が感じた底知れぬ魅力と誠実な作りを紹介したいなと思って感想を書いていきます。

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科学と哲学は別物、しかし思いは結果を導く

実を言うと、放送前にTwitterでいつもの人達が言及しているのを見て
また妙なシーンばかりで構成されてしまった土曜朝のアニメだろうと思っていました。
スタイリッシュに柵越えするお兄ちゃんが放送前から公式Twitterアカウントで宣伝されていましたし。
まあ匂いますねと。

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実際そういった予測できない絵面でも楽しめるのですが、そんな浅はかな思惑を良い意味で
飛び越えてくれる誠実なアニメでした。

 

物語は現代から始まり、3年前に失踪した科学者の父親である永司から貰ったペンダントによって
中学2年生のマリは16世紀のイギリスへタイムスリップしてしまいます。
そこで医者であり物理学者であるウィリアム・ギルバートと出会うことになります。
ここまではよくある学習アニメとしての導入なのですが、現代人であるマリが持っている下地と
16世紀に生きる人との価値観の違いがとても丁寧に描かれていて素晴らしいのです。

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科学と哲学が完全に分離し現代的に近づいていくのは16世紀から17世紀にかけてです。
それまではプラトンアリストテレスに代表されるように
「考えや目的という思想があって事実がかたどられている」と信じられてきたのです。
実際には逆で、事実があって理論があるのが正しい。
作中のギルバートが生きている時代も思想が優先されており科学者だけが事実を追い求めています。
思想によって真実が捻じ曲げられている、場合によっては為政者が科学者を処罰することもある状況です。
そんな中、未来からやってきたというマリが現れます。
普通であれば「そんな馬鹿な」と一蹴してしまうところをギルバートはすんなりと受け入れてしまいます。
素足を露出した制服姿で街中をウロウロしているというだけでもおかしいと
ギルバートのメイドも指摘するように

全く異なる文化圏から来たマリをまず受け入れる姿勢が興味をひきます。
事実を偏見なしに見つめマリの言葉をよく聞き分析していく姿は科学者そのものです。
そして教育によって培われた科学的な合理主義にもとづくマリの言葉に打ち震えるわけです。
「当たり前…君たちの時代では皆それを知っているのかい?」と。
マリは常識として知っていても実体験に基づく感覚に結びついていないため
ギルバートが感じる疑問に答えることは出来ても何故そうなったか?は説明できません。
それでも未来では多くの人が「当たり前」と感じるほどに科学に対し興味を示し
合理的な考えが浸透している事実を前にしてギルバートが勇気づけられるのは凄く良い。
自分の信じた科学の道が間違っていなかったという証拠になっているわけです。
そしてそれで終わりにはしない。
彼は結果を受けて本当なのかどうかを証明しようと突き進んでいくのです。

 

また、マリの立場から想像しても面白いものが見えてきます。
学校の授業ってとっつきにくく退屈なことが多かったなということです。
特に歴史の授業は結果だけが羅列されていて
「一体何がどうなったからそうなっているか」が見えてこないからです。
私達が今を生きているように、歴史を振り返る上で苛烈に生きた人達のドラマが必ずあるはずです。
教科書から知識を得ることはできますが人の心に触れる機会はありません。
そしてもう一つ。
過去あったことがどう現代に繋がっているかが分からないということです。
今の私達の生活にどういう影響を及ぼしているのか、その過去が無ければ一体何が失われていたか。
大昔のことなんてどうせ関係がないでしょ?
そう思って過ごしても仕方のないことです。
でも、マリはギルバートと出会い直接関わることで過去に起こった事実が
現代に結びついていることを実感するのですよね。
ギルバートだけでなく様々な人達が努力し積み重ねてきたから今私達は生きているのだと。
何をどう感じるかは実際に見ていただきたいので具体的には述べませんが。

 

過去の人間と未来の人間が出会うことで生まれるドラマが静かにそして誠実に描かれている。
10代をメインターゲットに作られたアニメですが、見張るものがある作品だと感じます。
興味のある方は是非視聴してもらいたいですね。

 

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